陽一郎さんと私には、プライベートな関係しかなかった。 会うときは、いつもふたりきり。 誰にも知られることがなくて、2つの顔を使い分けることもない。 いわゆる日陰の身だけど、それはそれで楽だったような気がする。 今の彼と私は、そういうわけにもいかなくて。 色々とオフィシャルな場にも、揃って出ないといけなかったりする。 会いたくない人にも、会わなきゃいけない。 どうしても、避けられないこともある。 そう、彼の奥さんとも。 実は、かなり唐突に、そんな事態になってしまった。 もともと、妻とは上手くいってないんだよ、なんて言わない人。 私の目の前にいるのは、評判通りの素敵なご夫婦。 こういうの目の当たりにすると、一般的にはどうなんだろう。 なんて、ちょっと思ったりした。 私は、かなり心拍数が上がっていたような気がする。 短く自己紹介して、「いつもお世話になっています」なんて言って・・・。 それから、どうなったんだろう。 私は、驚いたことに、その場面の記憶を封じ込めたみたいだ。 彼の奥さんの顔も、今はぼんやりとしか思い出せない。 私、不自然じゃなかったかな。 こういうことがあると、もう止めようかって思ったりするのかな。 そんなことを思いながら、帰り道、肩を落として歩いていたら・・・ 久しぶりに陽一郎さんからメールが届いた。 いつも思うのが、このタイミングの良さってなんなんだろうってこと。 ちょうど、来週は、彼の住む町に出張の予定。 食事にでも誘ってみようかな。 自分を試してみたいような衝動にかられたけれど。 結局、決められなかった。 陽一郎さんに会って、何がしたいのかよく分からないし。 おそらく、負荷分散みたいなものかな。